広い間口の店頭に、いつもねじり鉢巻きで威勢よく店番をしていたお爺さ
んも徐々に元気をなくし、床几に腰掛けて煙草をふかすだけの毎日となりました。
何人かいた店員もいなくなり、時折、息子らしい主人が軽自動車に何かを積んで出かけるのを見かけるだけになりました。
<かわいそうに、この店は潰れるな>と思っていたら案の定、ある日を境に店の戸が閉められたまま、お爺さんの姿も見えなくなってしまいました。暫らくすると取り壊しが始まったので<きっと土地も売り、どこかに淋しく隠居したのだろう>と思っていたら、その工事は建屋半分程を残して止まり、壊した部分はきれいに整地してイタリアン・レストランが建ちました。そして残った部分は、ほぼ昔通りのたたずまいで「かき氷屋」として再出発したのです。
<よく考えたものだな。だけど今どき「かき氷」なんか食べにくる人はいるのかな>と半ば感心し、半ば心配して見ていたら、それが結構いるのです。特に夏場になってからは大繁盛。近くの幼稚園帰りらしい可愛い子どもたちが、お母さんに連れられてワンサと押しかけています。隣のレストランで昼食をとったサラリーマンたちも、判で押したようにその列に並びます。<なるほどなー、イタ飯の後にかき氷か>といたく感じいりました。
猫の額のような青空コーナーの賑やかなこと。そこに例のお爺さんと、そのお内儀とおぼしきお婆さんまで出て、昔懐かしい「かき氷」を運んでいます。ひ孫のようなお客さんに囲まれて、老夫婦が楽しそうに立ち働いている姿は何ともほほえましい。氷削機を回しているのはどうやら孫娘とその友達のようです。
かつての深川の下町風景が再現したような感じです。
物見高いうちのカミサンは、その光景につられて早速食べてきたそうです。品数は豊富で「ブルー・ハワイ」とかいう新種の他、昔通りの「氷イチゴ」「氷レモン」「氷メロン」等々、山もりの「かき氷」を楽しんで一杯百円ぽっきり。ご満悦の表情で帰ってきました。
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