では、彼らはいったいどこで、何をしているのか?
最近は年がら年中子どもたちが2、3人で固まり、隠れるように公園やビルやマンションの片隅で地べたや床にベッタリと座りこみ、いわゆる「コンピュータゲーム」に長時間熱中している姿をよく目にする。時折「ワーッ」と歓声をあげたり「チクショウ!」などと叫ぶので、すぐそれと分かる。<これは多分、親たちに隠れてゲームに現をぬかしている場面だ。きっと塾とかに行くと嘘をいって出てきたに違いない。あるいは「鍵っ子」たちか?>。
親をたばかって遊びにふける話なら昔も今も変わらない。だが、遊ぶ種目が「コンピュータゲーム」となれば看過しているわけにはいかない。この種のゲームは、祖父母はもとより親や学校の教師たちもかつて自ら経験したことがない。全く新しいゲームだから、皆、手をこまねいて傍観するか<子や孫が喜ぶものなら>ということで、新しいマシーンやソフトを積極的に買い与えている。
だが、それは危険だ。止めたほうがいい。下に列挙した本によると、それは子どもの学力、思考力、表現力、創造力、協調性といった人間としての大切な特性を奪い、情緒不安定と引きこもり症を誘発し、キレやすくなり、社会的マナーやモラルを破壊し、ひいては経済力、国力ともに劣化し衰退させかねない・・・・・。「コンピュータゲーム」の隆盛は、まさに亡国の兆しなのだ。もう個人レベルの話ではない。国家の一大事として、全国民が取り組むべき課題になっているのだ。
そうした問題を、私は主として以下のような書籍を読んで知った(発刊順)。
★松澤大樹「心と脳の革命」徳間書店・97年
★片岡直樹「テレビ・ビデオが子どもの心を破壊している!」メタモル出版・01年
★梅原猛「梅原猛の授業道徳」朝日新聞社・03年
★奥田碩、榊原英資、明石康、マハティール・モハマド、山折哲雄、川勝平太、金沢一郎、伊藤正裕「次世代リーダー養成塾(講義録)」詳伝社・04年
★草薙厚子「子どもが壊れる家」文春新書・05年
★計見一雄「脳と人間」講談社学術文庫・06年
★板倉徹「ラジオは脳にきく」東洋経済新報社・06年
★榊原英資「幼児化する日本社会」同上・07年
★久恒辰博「大人にもできる脳細胞の増やし方」角川出版・07年
★ウィリアム・W・アトキンソン/ハーパー保子訳「記憶力」サンマーク出版・07年
★森昭雄「『脳力』低下社会」PHP研究所・07年
★榊原英資「日本は没落する」朝日新聞社・09年
★筑紫哲也「若き友人たちへ―ラスト・メッセージ」集英社新書・09年
これらの書名の中に「コンピュータゲーム」と「脳」に密接な関連があることを直接的に示唆しているものがある。そう。そこにこそ現在の課題を解く鍵があるようだ。
その一つ。「『脳力』低下社会」を著した医学博士・森昭雄氏は、日本健康行動科学会理事長として脳神経科学分野で活躍しておられるが、その第1章で「私は、現代のIT社会の中で、テレビやコンピュータが子どもの成長過程でどのような影響を与えるのかを心配しています」と記し、冒頭に次のノンフィクション作家・柳田邦男氏の持論を配して同書刊行の意図を明らかにしている。
私はその趣旨に深い共鳴を覚えたので、次にその全文を孫引きさせていただき、問題の所在を多くの人々と共有したいと願うにいたった。
「・・・・・映像メディアの負の側面は、子どもや若者の心に重大な影響を与えている。幼いころからテレビやゲームに浸っている子は、自分の気持ちを言語化する力や感情の細やかな分化や相手の気持ちを汲み取る力の発達が遅れる傾向にあることが、専門家による調査や凶悪事件を起こした少年少女の人格特性分析によって明らかにされているのだ。・・・・・2005年版犯罪白書は、少年院の教官がとらえた少年像、両親像の初めての結果を明らかにしたが、それによると非行少年の特徴として『感覚、感情で物事を判断する』という少年が60%を占めている。これはまさに、親が子育てに関心を持たず、子育てをテレビやゲームに任せている結果と言える。
一方、親が子どもにテレビを選択的に見るルールを決め、代わりに絵本の読み聞かせを毎日しっかりと行ったり、自然環境の中で一緒に遊んでやるのを心がけたりしていると、子どもは早くから言語力(自分の気持ちをはっきり言ったり文脈を理解したりする力)を発達させ、情緒的に豊かな感情をもつようになる。・・・・・情報環境の再構築が緊急に必要だ。子どもたちがテレビ、ネット、ケイタイというバーチャル(生身でない仮想現実)な情報メディアに浸りきっている状況を突き崩し、親に子どもとの生身の接触を回復させるために、絵本の読み聞かせや子どもの読書活動を飛躍的に充実させる必要がある(『中国新聞』2005年11月20日)」
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