Editor's note 2019/9

 ヴォカリーズ(Vocalise)と言えば、クラシック声楽通は、セルゲイ・ラフマニノフの「ヴォカリーズ」作品34の14(1915年)を思い出すかも知れません。

ピアノ伴奏付きの歌曲集である『13の歌曲集』作品34は、1912年に完成していたのですが、14曲目に”Vocalise”が終曲として加えられたのです。この曲だけは歌詞をつけずに、メロディだけ書かれています。

ヴォカリーズとは、歌詞を伴わずに母音のみによって歌う歌唱法を意味します。
 


Sergei Rachmaninoff
(1873-1943)

名称はフランス語の動詞 vocaliser(声にする、声だけで歌う)の命令形 vocalise に由来します。母音唱法とも呼ばれます。

ラフマニノフがチャイコフスキーの薫陶を得たことはよく知られた話です。因みに、1942年にアメリカに渡り、70歳でロサンゼルスで亡くなっています。 

昔、「コンコーネ」なんてやらされたのと一緒ですネ。声楽の練習曲なのです。

あのキリ・テ・カナワの”Vocalise”をどうぞ。

 

https://youtu.be/fW630zFA93Y

何とも、美しいですねー。譜面が見たいですかぁ?嬰ハ短調です。

⇒ Vocalies Sheet Music

そもそも、ヴォカリーズの起源は18世紀半ばにさかのぼり、ジャン=アントワーヌ・ベラールの編纂した曲集『歌の技芸』(L'art du chant, 1755年)だとされています。

 ヴォーカリーズ(Vocalese)ってご存知ですか?ややこしいですか?こちらは戦後、1940年代の終わりに、ジャズの世界で生まれた1ジャンルです。ジャズの演奏家は自分にソロの出番が回ってくると、所謂、アドリブと呼ばれる即興的な演奏を聞かせます。メロディを単純に演奏するのではなく独自の複雑なフレーズを作り出しています。そんなアドリブのピースに歌詞をつけて歌う歌唱を「Vocaleseヴォーカリーズ」と呼んでいます。

上記の音楽用語Vocaliseに、言語名称などに使う接尾語「-ese」を組み合わせた造語です。
 


Eddie Jefferson(1918-1979)

ヴォーカリーズの創始者はEddie Jeffersonというピッツバーグ生まれのもともとタップダンサーだった男です。40年代になって歌と作詞をやりだしたのです。

エディがテナーサクッスのJames Moodyが吹いた"I'm In The Mood For Love"のアドリブ・ピースに歌詞をつけてしまいました。それを、King Pleasureが唄い"Moody's Mood For Love"と、もじったタイトルをつけて大ヒットしました。 

これがVocaleseを世界に広く知らしめたのです。


https://youtu.be/Y0XYZNx6854


King Pleasure
(1922-1982)


Blossom Dearie
(1924-2009)

後半で女声が入って来ます。歌っているのは、少女のように可愛い声でピアノ弾き語りをするBlossom Dearieです。

彼女をお手本にする女声弾き語り歌手が2人います。その1人がオーストラリア、シドニーのJanet Seidelという歌手で、20年程前に初対面以来、仲良くしてきました。「歌詞が分からない」と言うと、すぐにメールで応えてくれます。ところが、去年の8月に62歳で病死してしまいました。ジャネットの実兄とパートナーから訃報メールが来てビックリです。

ジャネットはこの"Moody's Mood For Love"から刺激を受けて、「何時か、自分も歌いたい」と思ったのでしょう。当時、生存中だった彼氏のTom BakerとDuoで歌うことを考えました。そして、ジャネットがメインに歌い、Tomが後半で入ってくるという、男女の受け持ちをひっくり返したアレンジで吹き込みました。

タイトルは”There I Go Again”です。見事な出来栄えです。

 

https://youtu.be/uIJk77n_5AY

ペロペロっと歌っています。譜面で見てください。

⇒ ”There I Go Again”の採譜

こんな細かい音符たちを歌の譜面で見たことないと思います。

 Vocaleseを育てた男がいます。1957年に結成されたモダン・ジャズコーラス、Lambert, Hendricks & RossのJon Hendricksです。1959年のダウンビート誌で、"The Hottest New Group In Jazz"と書かれました。私が大学生になった時です。ラジオから流れてきたのは、B. Timmonsのモダンジャズの曲"Moanin'"にジョン・ヘンドリックスが歌詞をつけたものです。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャースが演奏して有名になった曲でした。


Jon Hendricks(1921-2017)

ヘンドリックスは96歳まで長生きし、生涯、Vocaleseの歌詞作りを続けたのです。

1990年に珍しいCDが発売されました。印象的だったのは、1931年にルイ・アームストロングが吹き歌った”Stardust”に歌詞をつけ、ヘンドリックス夫婦で歌ったものを聴いてください。

 

https://youtu.be/8sDtgFTTblc

 ヘンドリックス夫婦の話

(2019/9/7・わかやま)


編集部後記 あの人(12期)からメールが来ました。

Vocalise”ってラフマニノフとは知りませんでした。

ふと思い出したのだ。
今じゃネットですぐ出てくる。
本を開くことなく確かめられたよ。
かっぱ

カッパさん、
そう言えば、
ヘンデルの「調子の良い鍛冶屋」と言う、ピアノの小品があるでしょ?
良く子供のピアノ発表会なんかで弾く曲だけど、これをラフマニノフが弾いている。
「腰が抜ける」ほどの凄い演奏だ。
「もし無人島に流されるとしたら、何のCDを4枚持っていくか?」と聞かれたら、
この「調子の良い鍛冶や」と、
ホロヴィッツの「トロイメライ」と、
グールドの「メンデルスゾーンの無言歌」と、
リパッティーの「モーツアルトのピアノソナタの8番」
を持っていく。

ドーミーレーソーミーレドレーソー・・・ 憶えてる。
末は面白いことを書いてくれる。
ホントに珍しいよ。

かっぱ

(2019/9/20)


FEST

 


 


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