リレー随筆コーナー

楽友会愛唱歌集より 「学生歌」


 宇都宮日美(27期)


わがゆくみちは はるけきかなた のぞみにわがむね たかなりおどるよ
   うたごえたかく いさみてー すすめ

 
                ドイツ民謡   作詞 岡本敏明


岡本敏明(1907-1977)

楽友会の4年間たくさんの曲を歌ったが、思い出の曲は何かと聞かれたら、迷わず「学生歌」を挙げたい。

大学に入学したばかりで日吉の銀杏並木を不安と期待に胸弾ませて、おどおどと歩いていた私に、白いブラウス黒いロングスカートの可愛らしい2年生の女性が声をかけてきた。プロテスタントの女子校時代の私は、聖歌隊には入っていなかったが、毎朝賛美歌を歌い、合唱コンクールあり、クリスマスにはメサイアを歌うという校風だったので、楽友会に入ることには全く抵抗がなかった。

入部してすぐ愛唱歌集という先輩方手作りの一冊の歌集を渡された。大学の昼休みに練習があり、生協の上の部室で愛唱歌集の中の曲を次々歌っていった。ドイツ民謡としか書かれていないこの曲を歌った時、18才の自分の心持ちとぴったり合ってドキドキしたことを覚えている。

6年間女子校に通った反動で、大学は絶対共学と決めていた。高校生の時に、関西学院大学のグリークラブが演奏しに来たことがあり、男声合唱は素晴らしく上手だったし、とにかくすべてが格好良く見えた(今にして思えば笑えるが、男性に免疫がなかった)。憧れの大学に入り、混声合唱ができるなんて、と舞い上がっていた。そんな時に出会ったこの歌。歌詞の通り、わがむね たかなり おどった。

ドイツ学生歌と呼ばれる、このいささか古めかしい素敵な歌は、もともと13世紀ごろから歌われていたらしい。ラテン語でGaudeamusuガウデアームスと呼ばれる、ヨーロッパ各国に伝わる伝統的な学生歌である。

このメロディは、実はいくつかの楽曲に使われている。「ボッカチオ」で有名なフランツ・フォン・スッペのオペレッタ「愉快な仲間」の序曲、ヨハネス・ブラームスの「大学祝典序曲」の4つの学生歌のうち最後の曲、またユニバーシアードにおいては、開閉式、および各競技の表彰式で(国歌に代わり)勝者を称える歌として、この曲が演奏されるそうだ。(*Weblioより引用)

ラテン語の歌詞は、10番まであり、その1番は
  諸君、大いに楽しもうではないか 私たちが若いうちに
  素晴らしい青春が過ぎた後、苦難に満ちた老後の過ぎた後
  私たちはこの大地に帰するのだから!

日本語の詩とはかなり違うけれど、原詩は人生の真実を伝えている。興味のある方は、10番までチェックしてほしい。

映画「アルト・ハイデルベルグ」の中でも学生たちがこの曲を歌っている。ウィルヘルム・マイヤー=フェルスターの戯曲を基にしたこの映画は、「学生王子」としても知られている。ドイツザクセン公国の王子カール・ハインリッヒが大学都市ハイデルベルグに留学した短い青春の日々を描いたもので、ビアホールの女給ケーティとの恋、決闘、大学対抗競技会、ネッカー川沿いの古城のあるハイデルベルグの美しい風景、突然の別れ、とロマンチックな物語は老若男女の心を捉える。私がこの物語を知ったのは、中学生の時に読んだ水野英子(女手塚治虫といわれたスケールの大きい女流漫画家)の少女漫画であった。うぶな私はこの悲恋物語に涙したものだ。

大学を卒業してから、35年。このメロディを口ずさむと、あの頃の自分が少しだけ甦る。人生で一番輝いていたころ。あの頃のことは、楽しかったことも辛かったことも含め、キラキラしたひとまとまりとなって心の中の奥深いところに潜んでいる。ラテン語の歌詞のように楽友会の記憶は、大地に帰するまで私の宝物である。

ボロボロになっても私の手元にある愛唱歌集。ワープロもパソコンもなかった時代の手書きの歌集。編集後記には、新愛唱歌集作成のため費やした編集委員の6か月越しの苦労、200曲から50曲に絞る難しさが書かれている。そして「願わくば、これら小さな歌たちが皆さんの心を明るく照らさんことを、そして心と心をさらに強く結びつける絆とならんことを」と結ばれている。

古き良き時代の愛唱歌集を作ってくださった、何とも真摯な24〜26期の先輩方に深く感謝する。

(2017/1/30)

バトンの受け渡し先ですが何人かに断られてしまい模索中です。
皆さんお忙しい。決まり次第ご連絡致します。(1/31)

苦節1か月、6人に断られ自信を無くしておりましたが、同期の高橋俊樹さんがようやく引き受けてくださいました。(3/5)

    


編集部注 
岡本敏明氏は、宇都宮さんがご承知かどうか、故岡田忠彦先生の国立音楽大学での恩師であられます。そこで、岡本敏明先生の写真を載せさせていただきました。

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次に、楽友三田会が「愛唱歌集 Vol. 1」を編纂発行したのは昭和54年(1979年)のことです。本棚を見たらありましたよ。私のはボロボロではありません。新品です。それは、ほとんど愛唱歌集を開いて歌ったことがない証拠です。(1/30・かっぱ)


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