リレー随筆コーナー

楽友会の想い出


市川卓広(高20期)


私の楽友会での思い出は、何と言ってもその楽友会との出会いに尽きます。その出会いが無ければ今の自分は決してなかったでしょうし、そもそも自分の成長もなかったと思えるからです。今回不思議なご縁からこうした自分の想いを文字に起こさせて頂く機会を頂戴しましたので、かなり個人的なことで恐縮ですが、楽友会との出会いについて一言書かせて頂くことに致します。

塾高に入り、小学校低学年に大病を患って以来ずっと見学を続けてきた体育の授業に参加できるようになったのは、私にとって何よりも嬉しいことでした。病気で奪われていた体力も徐々に回復してきて食事も常に友人と学食で共に摂れるようになりました。普段の生活がそれまでと激変し、自由に羽を伸ばせる喜びと、また元の状態に戻るのではないかという不安が入り混じった日々を送っていたある日、たまたまクラスで席が私の後だった友人から「市川君、クラブ活動はどうするの?」と尋ねられ、そういえばそういうことも決めてよいと医者から言われていたことを思い出しました。その友人は中学から同じ学校で学んでいて、中学当時のクラスは違っていましたが、普段からガッチャマンを歌わせたらTVの主題歌を歌う歌手本人よりもうまいと評判で、当時私の耳にもそうした噂はよく聞こえて来ておりました。その友人は私に「僕は今日楽友会に見学に行こうと思うんだけど一緒に来ない?」と誘ってくれました。

どちらかというと體育會が目立つ学校にあって、合唱のクラブがあるのも珍しいなとは感じていました。しかし関心といえばそのくらいで、楽友会の存在を知ってはいても自分から行く気にはならなかったのが正直なところです。思えば歌うこと自体にそんな大した関心も考えもなかった自分が、こうして今この原稿を書かせて頂いているのですから、本当にご縁というのはかくも不思議で且つありがたいものなのかと感じるばかりです。

そのクラスの友人と一緒に、その日の放課後、別棟の4Fにある音楽室を訪ねて行きました。仮入部の制度もあるし、気に入らなかったらすぐに辞められるだろうからとかなり安易な心持で音楽室の前までたどり着いた時でした。「ドカーン!」防音用の鉄扉の部室の内側から何かが激しくぶつかる音がしてきた、と同時に「ストライク!!」という明るい良く通る大きな声が中から聞こえてきたんです。

その友人とは顔を見合わせ、部屋、ここでいいんだよねと互いに確認し合って恐る恐る鉄扉を開けたところ、中では3年生が音楽室を対角線上に使い互いに部室の扉とグランドピアノを背にしてグローブと軟式のボールを使いキャッチボールをしていました。・・・それも普通に本気で。そのお二人は3年生の部長と指揮者の方だったのですが、特にその部長は個性派揃いの3年生の中でもとりわけ、なんだかありとあらゆる勢いがものすごい方でした。

私は自分の用意していた仮入部届をその部長に出して「本日は見学に来ました」と告げたところ、「そんな制度、俺は知らん」と一蹴され、瞬時に「仮」という字を真っ黒に消されて入部届に書き換えられてしまいました。こうして半ばなし崩しに私の楽友会での生活が始まることとなったわけです。でもクラブ活動を始めるきっかけというのは大なり小なりこんな感じの勢いで決まってしまうものなのかもしれないですね(なんか違う気もしますが)。

そんなこんなで何となく始まった楽友会での生活は、その後、自分の頭の中では高校生活の大部分を明らかに占めるほどにまでなっていきました。塾高の音楽室は決して広い空間ではなかったですが、そこで出会った方々とは今でも様々な場面でご一緒させて頂いたり、お世話になったり、またある時はありがたくも自分の子供までお世話になることもあるなど大変深い繋がりを頂いております。そして今でも時々高校楽友会OB・OGの方々と練習をご一緒させて頂く機会にこの音楽室を訪ねることがあるのですが、行くたびに音楽室の中から未だにスゴイ音が聞こえてくる気がしてなりません。

こうして次々思い出していくと、音楽教室やその前のお手洗い、渋谷の名曲喫茶「らんぶる」、女子高地下にある調子外れのピアノのコーナーなど、場所に関する思い出がものすごく多く残っていることを今更ながら自分でも驚きます。でも、その話を書き出すときりがなくなるので、別の飲み会の席にでも譲りたいと存じます。

楽友会との初めての接点だけでもかなり書くことが多く、想い出を何か書いて欲しいとご要望を頂戴しましたが何を書いたらよいものか本当に悩みました。しかし、合唱という音楽を通じて社会に対して今でも目を開かせて頂けているのは、まさに楽友会との出会いがなければ決してあり得なかったことなので、そのことに感謝する気持ちで出会いについて書かせて頂きました。

この度は、とりとめのない話ながら、あまり人にお話することのない想い出を綴らせて頂く機会を頂戴しましてありがとうございました。引き続き宜しくお願い申し上げます。

(2019/7/1)

バトンは同期(20期)の 「筧 明(かけひ あきら)」君にお願いすることになりました。

(2019/7/1)

    


編集部 リレー随筆のバトンが荒井惠里子さんから市川卓広くんに渡りました。やっと市川君から原稿が送られてきました。有難う。

市川君は、これまでに高校関連の演奏会などで沢山の写真を撮り、「楽友」に提供してくれています。が、自分の書いた本稿には一枚の添付もありません。面白い現象です。(2019/7/1・かっぱ)


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