リレー随筆コーナー

「蜜蜂と遠雷」と「マエストロ」


塚越敏雄(8期)


新型コロナの蔓延で、この原稿を書いている8月になっても、どこの合唱団も本格再開には程遠い状況である。全日本合唱連盟が合唱練習の指針を発表したが、団員間の距離は前後2メートル、左右1メートル、マスク着用を推奨、楽譜の共用不可、身体の接触不可、練習時間は30分以内で5分以上の換気、休憩時は会話をせず、窓と出入口は開放、練習後は分散退場、会食不可、その他という具合で、その通りやってもあまり練習になりそうにない。合唱には会場を貸さないという施設もある。オンライン会議システムを使ってのオンライン練習をやっているところもあるようだが、個々人の練習にはなるが、お互いに会場に響いているハーモニーを感じて、曲を作っていくという合唱や合奏の練習にはなりそうもない。

歌えないなら、聴く楽しみというのが普通だが、直接的すぎて辛いので、読む楽しみを探ってみた。

2016年単行本が出版され、直木賞と本屋大賞に輝いた恩田陸の「蜜蜂と遠雷」を手に取ってみた。CDや映画も作られ、出てくる音楽を中心にコンサートも開かれた。浜松の国際ピアノコンクールをモデルに、コンクールに参加する若者たちを描いた青春小説だが、ピアノ曲が50曲、作曲家の名前が17人も出てくる(数え違いもあるかもしれないが)。

これだけの曲や作曲家の数が出てくる小説に昔出会ったことがあるのを思い出し、暇に任せてその小説に出てくる曲と作曲家の数を数えてみた。1995年に邦訳が出た「マエストロ」というジョン・ガードナーが書いたミステリーである。交響曲からオペラ、民謡、ジャズ、ポピュラーまであらゆる分野で96曲あった。

しかし宗教曲は3曲しかない。作曲家は36人出てくるが、ブラームスは名前だけ。モーツアルトもドン・ジョバンニのソプラノの役名が出てくるだけ。一方マーラーは交響曲5曲歌曲3曲というかなりの偏向ぶりだ。

「蜜蜂と遠雷」はコンテスタントや審査員の心理描写が中心で音楽を描写しようとはしない。一方、ガードナーはラベルのボレロについて、マエストロにオーケストラに向かって解説させる。「これは心臓の鼓動だ。これは血液が動脈に押し込まれるところだ。いや駄目だ。わたしはもっと騒々しく異教的に演奏してほしいのだ。音のレンガで建築するようなものだ。-以下略-」

音楽コンクールを舞台にしながら音楽を語らない小説も一晩で読みあげたが、それに触発されて、1995年のスパイものを再読し、ちりばめられた音楽がシーンを引っ張っていく楽しみを味わせてもらった。

コロナ籠りも捨てたものではない。

(2020/9/1)

    


編集部 なかなかバトンリレーが進まない。バトンを渡そうとすると、「忙しい、時間がない」とか言って断る人が多いようだ。何カ月もかかって次の著者が決まり、また、書き終わるまで何カ月もかかる。

我々が若い頃、日立中央研究所の嶋田さんが「ものを頼むなら忙しい人に頼みなさい」と教えられた。本当に忙しい人はいろいろな事を引き受けるから忙しい。時間をうまく使い、たくさんの仕事を片付けて行く。忙しくない人間は、仕事をせずにほったらかしにして置くから暇なのだ。

編集部が原稿集めに困る時期に塚越ライターに原稿依頼をする。その代りバトンを渡す相手を見つけなくてもよいという特典がある。彼は特別ライターなのです。

皆さん、バトンリレーが免除になる特別ライターになりたい方は連絡してください。

(2020/9/1・かっぱ)


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