演奏会当日、野本さんがチョット来いという。行ったらスケジュール表を私に示し「これに従って、ステマネをやれ」という。全く未経験で勝手のわからぬ私だが引き受けてしまった。
会員諸兄姉はステージに整列。その前で指揮台をかかえてオタオタしているのが私と当日補佐役の眞ちゃん。列の中では大将の佐野さんと、野本さんがオタオタしている。「奴ら何やってやがるんだ」ってぇ感じ。<いけねぇ、指揮台はいらねぇんだ>。
こうして私のステマネ歴が始まった。宇部における演奏旅行最後の日である。各大学の連中が花束、果物籠を送ってくれる。花束を持った人がステージに現れる、場内アナウンス曰(いわ)く「果物籠が贈られます」。続いて登場したのが果物籠、場内アナウンスは「花束が贈られます」。場内アナウンサーに指示しているのは、何を隠そうこの私。冷汗がタラタラ・・・。
あくる年の春。イイノホールに於いての第1回フェアウェル・コンサート。今回は趣向を変えて岡田先生の指揮で開幕。先生並びに伴奏の方に花束の贈呈、とここまではよかった。が、その二つの花束、卒業生全員に贈るために揃えた花束の中の二つだった。先生方が舞台から帰っていらしたところを待ち構え、「すみませんが、それを返していただけませんでしょうか」。伴奏者は客員の方である。調子が悪かったネ。
つづいて舟山の指揮。「がんばれよ!!」。舞台の袖で舟山と握手。指揮者はステージへと歩む。アレッ?「野郎、ステテコのままステージに出たんじゃねぇだろうな」。
演奏会の最後。卒業生全員に花束贈呈。アーラ不思議。先ほどの花束が行方不明。舞台では華やかに花束贈呈、舞台裏では花束捜査の真っ盛り。ない。どこにもない。最後の二人、石崎さんと東郷さん、ご免、花束がない!!その土壇場。「あのー、花束を贈りたいんですが」と外部の方から花束2本。ホッと安堵の胸をなでおろす。ハンカチが何枚あっても足りなかったネェ。
さて第11回定期演奏会。再びステマネ務めまするはこの私。場所は文京公会堂。今回は舟山の指揮で開幕。彼のステージ終了と共に、指揮者並びに伴奏の鳩山嬢に花束を贈りたいという人間が現れた。結構ですネとその場は終わる。
続いて登場するのが大野。いけねぇ、このステージにも花束を出さなきゃ釣り合いがとれねぇじゃねぇか。花束は20束近くあるが、勝手にここで出すわけにはいかない。指揮者の大野と日野原嬢に「花束あげるけど、後で返してね」。いってる方も気持がわるいが、いわれた方もいい気分じゃなかったろう。
演奏開始。アリャ、金屏風が出てねぇじゃねぇか。裏方のオヤジさん「まかしとけ」って胸たたいていたのに、だいぶご酩酊だったからな。まいったなぁ、ステージ終了まであと僅か。大野君に花束をあげたいんですが、もう一つ来ないものかと待ったが来ない。日野原嬢から花束奪還。申しわけなかったねぇ。
最後のステージ・戴冠式ミサ曲。「お願いします」。岡田先生舞台に出る。場内割れんばかりの拍手。演奏前の静けさ。長い、長すぎる。幕間からステージを覗く。岡田先生キョロキョロしてらっしゃる。<どうしたのかなぁ>、舞台袖ではステマネこと私がオタオタオロオロ。岡田先生のジェスチャー<ステージ横のライトを消せ?><諒解>。照明係に電話連絡。演奏開始。暫時ボーとしてたネ。
演奏終了。楽屋の電源の配線が悪すぎる。これがまずかった。録音と場内アナウンスが同時にできない。ソリストの田島さん以下4名の皆様および岡田先生。全員袖へと引きあげてらした。田島さん私に向かって開口一番「花束こなかったの?」。ニッコリ笑って「いや、たくさんありますょ」「じゃ早く出よう」。田島さん皆を促して再び舞台に。この時ソプラノの志賀さん「アラ、また出るの?」その困った表情。何分純白の長ーいドレスが大変ですからネ。気の毒だったねェ。





かくして三度ステマネを務めた私。先輩の方々評して曰く「いや本当によくやった」<穴があったら入りたい>。でも唯一人、佐野さん曰く「俺の方が冷や冷やしたぜ」<全くご尤も>。しかし、このステマネ業、何度務めても気持が好いものですねェ。数々の失敗がたとえあろうとも、皆様には申し訳ないが・・・・・。





最後に、この不肖私をステマネとして使ってくださった、楽友会の先輩諸兄姉並びに現役の皆様におん礼申しあげます。