記念資料集有馬語録)

抜け出る気持を

 

有馬大五郎(樂友会顧問)


楽友会20年の歩みは、同じ世界にあって確かに、立派で、スマートであった。フォーレのレクィエムをはじめとして、多くの大曲にいどんで、人間の若さがこれをやすやすと征服して来ている。省みて、その存在に大きな意義を感じ、拍手を贈りたい。

ただ、この合唱団が慶應という、明治以来、学生団体としての血の流れ、常にどこよりも、誰よりも一歩前進している、時には指導的な音楽愛好者の集まりであることを考えた時に、同じような公式のハーモニーを繰り返し、繰り返し、指揮者の指先と、こちらはアゴの先とで画を描いておる、あの退屈な雰囲気を日本国民に押しつけて、拝ませる慣習から抜け出る気持には、ならぬものかと訊ねたいのである。

いや、どうかすると、袋小路に入りたがる、アマルガム化したがる日本人の音楽を、パッと開けた世界につれ出すのは、若い楽友会の人達の仕事であるように思われる。これからは進歩的なことをやってもらいたい。どこかを拝むことばかりでなく、手の舞い、足の踏むところを知らずと言う、そんなものを。日本人に音楽を。

      第20回定期演奏会プログラム(71年12月3日)


FEST