1回の5度音程進行では周波数は元の音の周波数の3/2倍になります。
11回この操作を繰り返すと、以下の12音が生成されます。
Eb1−Bb1−F2−C3−G3−D4−A4−E5−B5−F#6−C#7−G#7
残りの音はオクターブの調律ですべてのピアノの鍵盤の調律が出来ます。ピタゴラス音律によるピアノの調律です。
@ C長調の音階:C−D−E−F−G−A−B−C
A D長調の音階:D−E−F#−G−A−B−C#−D
B F長調の音階:F−G−A−Bb−C−D−E−F
C G長調の音階:G−A−B−C−D−E−F#−G
D A長調の音階:A−B−C#−D−E−F#−G#−A
E Bb長調の音階:Bb−C−D−Eb−F−G−A−Bb
ですから、C、D、F、G、A、Bbをキーとする音階(ド〜シの7音)を構成する音はすべて生成された12音の中に含まれています。
しかし、Eb長調の音階:Eb−F−G−Ab−Bb−C−D−Eb
ですから、上記の12音にはAbがありません。G#はありますから、これを使うと困ったことが起こります。ピタゴラス調律ではAb=G#ではないのです。約1/8音程度G#の方が高いのです。
その説明は、以下の通りです。
G#7から5度上の音を調律します。D#8となります。出発のEbから7オクターブの音程があります。
Eb1を基音として12回繰り返すとD#8が得られますが、その周波数の比は(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)×(3/2)=(3/2)の12乗となります。
ここから7オクターブ下がってみます。オクターブ下がるのは周波数比=1/2とすることですから、7オクターブ下がると周波数は(1/2)の7乗となります。この計算をまとめて書くと、

D#から7オクターブ下がった音はEbと一致しないのです。周波数比が1であれば、同じ音なのですが少々高めになります。およそ1/8音の狂いがあります。
これで、EbとG#が気持ち悪い音程になってしまうのです。Eb長調のファの音であるAbがG#で代用されているために、ファの音だけが調子はずれになるのです。これをドイツでは「狼音」と呼んできわめて不快な音程とされています。
では、5度の上がりを何回か繰り返して、オクターブで何回か下がることによって、元の音に戻ることができるでしょうか。これはできません。5度の繰り返しを何回繰り返しても、基音の整数倍の周波数の音は出てこないのです。なぜだか知りたいですか?n回5度上昇し、m回オクターブ下降してもとの音に戻るということは周波数比が1になるということでした。式で表すと、

3のn乗は奇数になります。2の(m+n)乗は偶数です。したがって、上の等式を満足する整数m、nは存在し得ないのです。
しかし、n=53、m=31とすると、

かなり近似の程度がよくなることがわかります。これはオクターブに53個の鍵盤を用意しろということになりますから、そんなピアノは演奏できる代物ではありません。
このように、ピタゴラス音律で調律されたピアノは、移調や転調に弱いのです。現在では、平均律が一般であります。協和性を多少犠牲にして、移調や転調に対応できる有利さを一義的に考えたものです。
楽友の皆さん、これで平均律で調律されたピアノから音をとることは問題であることがわかるでしょう。世の中にはピアノでは出せない正しい音程で歌える人がいます。そういう正しい音程の人から口移しで自分のパートを習うとハモルのですよ。皆さんは譜面を読みながら唄う人種です。1800年代のバーバーショッパーは、上手な人が各パートを歌って聞かせて、耳から教えました。(2009/7/7・かっぱ) |