Editor's note 2009/11

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 昨日は晴海で行われた三田会合唱団の第17回定期演奏会に行きました。よく晴れた秋の昼下がり。編者の家からは自転車で行けるので、途中の紅葉などを楽しみながらゆっくりと会場に着きました。入口で岡田先生ご夫妻とお会いしました。昨年は奥さまが腰痛のため先生お一人だけでしたが、今年はお揃いでのお出まし。とても楽しみしておられるご様子で、何か勇気づけられるものがありました。出演の皆さんも張り切って、いい歌を聞かせてくださいました。

 この会は、演奏会とはいうものの音楽の他に仲間と再会する喜びがあり、むしろそれが何よりのモチヴェーションとなっています。出演者の中には1、2期の最高齢の方々も元気に、相変わらず頬を紅潮させて歌っておられましたし、客席には毎年アメリカから飛んでくる旧知の仲間の顔もありました。こうした光景は、他では味わえぬ心地よさです。

 終われば自然に旧知の仲間が集まり「乾杯!」ということになるわけで・・・。まずは遠慮会釈もない演奏会合評に始まり、やがて昔懐かしい青春讃歌に移ります。学生時代に共通体験をもつ者たちの懐旧談に終わりはありません。しかし、お互い高齢で何かと脛に傷もつ身。ある男は酒量を極端に減じなければならず、ある人は家族に介護すべき人がおり、またある者は杖を頼りに夜歩きを控える身。そこで巷に紅灯ともる頃ともなれば、別れを惜しみつつ三々五々帰路につくのでありました。

 勝鬨橋にたたずみ、昔も今も変わらぬ大川(隅田川の旧名)の流れを見つめていると、ついつい感傷的気分に陥ります。<行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しく止まる事なし。世の中にある人と住家と、またかくの如し(方丈記)>。そこで暗くなった川面に今は亡き友の面影を偲びつつ、<秋はしみじみ身にしみて、真実、涙を流すなり(秋のピエロ)>の一日を終えたのであります

 なんだか「行きはよいよい帰りは恐い」の寂しい話になってしまいましたが、来月には大学生たちの定期演奏会があります。今度はそこに行き、「若き血」あふれる若い人たちの元気をもらい、賑やかに年を閉めたいと思います。現役の諸君よろしく!期待しています、頑張ってください。

今月は、挿絵の代わりにそのチラシを掲げます。OBGの方々も、年末ご多忙のこととは思いますが、ぜひ聴きに行ってあげてください。皆さん、よろしく!(11月8日/オザサ)

楽譜編集ソフト昔々は楽譜係がガリ版を切って謄写版印刷をしました。謄写版の原紙は破れやすく気の短い者には始末の悪い道具でした。コピーなど使える時代ではありませんでした。懐かしいですね。もう50年も経ったのです。いまどきの若者は謄写版など知りません。それでは合唱団の皆さんは譜面書きにどんな道具を使っているのでしょう。

NEC98に一太郎の頃、自作の譜面書きツールを使っていた時代もありましたが、20年ほど前に渋谷のヤマハに楽譜編集ソフトを探しに出かけました。まだ、Windowsの時代ではありません。MS-DOSの時代です。Notator Logicとかいうドイツ製のソフトがありました。結構なお値段でしたが、使い勝手が良かったという印象はありません。Windowsになって、譜面ソフトのことはしばし忘れていました。

なぜなら、私自身の手書きの譜面は、楽譜編集ソフトの譜面よりずっと見やすいのです。しかし、コンピュータ・ソフトで書いた譜面はちょっとした修正も簡単ですし、移調するのが簡単です。それに小節をコピーして貼り付けなどの編集も手軽にできます。譜面の管理も紙とは比べ物になりません。タイトルで検索すればたちどころに出てきます。デジタルファイルにしておく利点はたくさんあります。

現在、ミュージシャン達が好んで使っているソフトにFinaleというソフトがあります。マニュアルはご想像通り難解です。音楽用語とコンピュータ用語の両方がわからない人にはチンプンカンプンで、誰にでも使いやすいというわけではありませんが、まあ、贅沢をいわなければ標準的な仕事はやってくれます。スコアメーカーなどというソフトも出回っています。

このパッケージは2009年版ですが、私が使っているのは古くさい2001年版のものです。2010年版も出ています。フルスペックのものは5〜6万円程度しますが、簡易版のPrintMusicというものも出ています。これは15000円くらいで手軽です。

キーボードのMIDI端子をPCにつないで弾くとと、演奏した譜面が自動的に出来上がります。PrintMusicでも可能です。欲しくなりませんか?

ソロ譜やコーラス譜だけでなく、フルバンドやオーケストラのスコアも書けますし、パート譜も生成してくれます。私達のカルテットも生意気にフルバンドで唄うことがあります。そのためのスコアが何曲か私のパソコンの中に入っています。

私達のフルバンド伴奏の編曲をしたのはバークリー音楽院出身の小林 裕というインテリ・ジャズピアニストですが、フルバンドの譜面を書くには、リズム楽器用の譜も書かなくてはなりません。

これはフルバンドのリズムセクションの部分の譜面です。楽友の皆さんが見ている譜面とはチョット違うでしょ。こういう変てこな記号を表現するにはどうすればよいか教えろといって、家に来ました。簡単な譜面は自分でもFinaleで書いているのですが、フルバンド譜面は手書きです。それで習いに来たのです。そのかわり、私がフルバンドの編曲を依頼すると特別価格で書いてくれます。

フルバンドの譜面をFinaleに写譜するのは、なかなか厄介な仕事です。一度、Finaleに入れておけば、いつでもパート譜が印刷できます。しかし、今でもミュージシャン達がアルバイトで写譜の仕事をしています。上にも書いたとおり、実は人手で書かれた譜面のほうが印刷物より読みやすいのです。

市販の譜面を買って唄う人には、楽譜編集ソフトも手書きの譜面も無縁です。作曲や編曲をする人には、とても便利なツールです。是非、使ってみてください。

 唄いやすいキーの選択歌や楽曲にはキー(Key)があります。市販の譜面や歌の本には標準的なキー(調)で書かれています。普通は作曲者が書いた原調で書かれています。クラシック系の歌は原調で唄うのが普通ですが、ジャズやポップスは歌手の音域に合わせてキーを選びます。大体、日本人の音域は世界で一番狭いといってもよいでしょう。したがって、”Any Key”などといえる人はきわめて少ないです。

女声と男声とは音域がずれています。闇雲に同じキーで唄うのはどちらかが苦しい目に遭うだけです。私が普通Ebで唄う歌だとすると、カミサンはBbで唄います。これも、アレンジ、つまり唄い方によってもキーが変わります。私自身、同じ歌でもCで唄う場合とEbで唄う場合があるのです。

さて、私の6歳からの友人がいます。ある会社の社長なのですが、彼の愛妻がスタンダード・ジャズを唄うのです。有名なジャズの師匠について習っていましたので本格的です。10年以上前の話ですが、彼女に合うキーの譜面を彼がパソコンで作ってやろうと考えました。親切な旦那様です。素人にとって、原譜から自分に合ったキーで譜面を書き直すのは一般に面倒くさいですし、簡単でもありません。彼の愛妻にはそのスキルはありません。

彼、梅ちゃんは自分で譜面など書いて唄う人種ではありません。Finaleでキーを換えることができるなんて知るはずがありません。誰か、親しいミュージシャンに入れ知恵されたのでしょう。

手順1 歌の本を買ってきて、譜面をスキャナーからTiff形式で読み取ってパソコンに入力してやると、読み取ってFinaleのソースファイルができます。その譜面は編集可能なファイル形式となります。打ち込まなくてよいので便利です。

手順2 その譜面を移調して彼女に合うキーに変換してやるのです。このソフトは譜面を再生してMIDI音を出します。「お前、これを聞いてみろ」と聞かせるのです。

手順3 そのキーで彼女は唄ってみます。

手順4 高ければ「もっと低く」逆なら「高く」と、彼女にちょうど良いキーを試行錯誤で決定します。

はい、こうして出来上がった譜面は何と嬰へ長調(F#major)の譜面となりました。曲名は何だったか忘れましたが、夫婦で西麻布のピアノバーに来てこの譜面をピアニストに渡しました。

「え〜っ!!」

そりゃあビックリします。このピアニストは先ごろ解散したシャープス&フラッツの原 信夫さんの姪で私達の専属ピアニストです。

大体ジャズでは#系のキーはあまり好かれません。管楽器がBb管だとかEb管だとかが多いからです。オーケストラではパート譜面は楽器固有のキーに合わせて書かれます。トランペットのパート譜では、Fの曲はGで書かれます。お遊びのときは、手馴れた奏者はFで書かれた譜面を見てGのキーで吹きます。移調しながら演奏できるのです。

ジャズ・ピアニストは通常のキーならCメロの譜面(通常の譜面)を見て移調しながら演奏してしまいます。しかし、F#なんて#が6個もあります。F#,G#,A#,B,C#,D#,E#,F#でドレミファソラシドとなります。普通は誰でも嫌がります。2人にはそういう知識はなかったのです。

パソコンのことを知っていても音楽のことを知らないと、この手のことは上手くいきません。逆も同じです。でも、こういう笑い話のような失敗をすることは貴重な経験といわなければなりません。これと同じ失敗をしでかした人が他にいると思われますか。しかしながら、彼の考えた方法は金はかかりますが、なんとも素晴らしいアイディアだったのです。ピアニストに「えーっ!」といわれるまでは、自分では上手くいって鼻高々だったものと思われます。カミサンも旦那を偉いもんだと思っていたはずです。2人でその譜面を大事に持ってきたのですよ。

音楽ならではの「笑い話」のつもりで書いていますが、愛妻のために知恵を絞って作り出した譜面が運悪くF#だったとは、これがFの譜面だったら「笑い話」にはなりません。そう、紙一重なんです。(11月8日/わかやま)