ヴェーデルン(Wedeln)という言葉は現在のスキー教程から省かれてしまいました。90年代後半からスキー用具も技術も昔とはがらりと変わりました。今のスキーはカービング・スキーと呼ばれます。カービングとは「曲がる(CURVE)」と思っている人が多いようですが、本当は「削る、えぐる(CARVE)」の意です。
スキーのエッジを立てて、板をずらすことなく雪面に食い込ませるように押し付けます。スキーは撓んで雪面に切れ込むように回転し前に滑ります。つまり、板をずらすという制動動作が入らないので、スピードが落ちないまま回転するという高等技術です。このような滑りはアルペン競技の超一流選手が編み出した技術でした。
スキー用具メーカーはお抱えオリンピック選手の用具を開発し、それで選手がメダルを取ると、それを看板にして選手と同じデザインのモデルを世界中に販売してきました。メダリストはスキーをわざわざ持って表彰台に上ります。どのメーカーのどういうモデルの板で勝ったのかを見せびらかすのです。メダリストでなくてもゴールインをすると、大急ぎでスキーを片足だけ脱いでテレビカメラに向かって「これだ!」ってかざします。コマーシャルをやるように選手はいわれているのです。何ともあさましい姿です。スキーほど商業主義に毒された競技は珍しいです。
その昔、オーストリーのケスレー(Kästle)やクナイスル(Kneissl)がもてはやされた時代があります。一度だけ浮気をしてフランスのロシニョール(Rossignol)のメタルスキーを履いたことがありますが、80年以降はフィッシャー(Fischer)になりました。
カービング技術を一般のスキーヤーでもやれるように開発されたのが、現在の丈は短く、サイドカーブが深い「カービング・スキー」です。短いので先ずは扱いやすく、回転内側に内傾してエッジを立てて体重を掛ければ、スキーが勝手に切れ上がって回転するという理論です。かつて2mのスキーを履いていたのが、160cmか170cmのスキーになりました。
このスキーではフェルゼンシュープ(踵の押し出し)はできません。無理すればできますが、頭と尻の幅が広くてエッジが引っかかります。常にエッジを立てて雪を切りながら滑るのです。スキーをフラットな状態にしないで滑る道具なのです。爺には結構大変です。筋肉を緩めている時間がうんと少ないのです。
カービングに移行しようとする時期にオーストリーのFischer社が限定生産した金のかかった贅沢な板がありました。昔のノーマルと現在のカービングの中間を行くような私向きの板なのです。この板を持っているのは、蔵王では私の師匠である岸英三会長と私の2人だけでした。10年以上前の板ですが何とも滑りやすいのです。その後、98年にはカービング・スキーの時代となりました。
蔵王の山と人に魅せられて50年。わたしの田舎は山形県蔵王となりました。山頂から目をつぶってでも一番下まで滑って降りれるくらいに足の裏が蔵王の全コースの地形を覚えています。実際、パラダイスロッジから上の台まで、大平コースの夜間滑走をよくしたものです。遠くは雪明りで見えますが、足元は真っ暗で何も見えません。雪量が少ない12月などは、コースに岩がうっすらと出ていることもあります。そんな時は火花が飛び散ったものです。それで滑走面を痛めたこともあります。アホなことをやったものです。
今どきはそんなことは致しません。第一そんなことをしたら叱られます。最後の最後まで蔵王にはナイター設備などありませんでした。夜は寒すぎたからです。それが暖冬のお蔭でしょうか、80年代になってから一番下の上の台ゲレンデでは夜でも電気をつけてリフトを動かすようになりました。夜間滑走は、学生時代の乱暴な暴走族の話です。
|