50年も前のこと、ゼミの関根智明親分がシャノンの話をしてくれました。電気のスイッチを直列に並べたり、並列に並べたりすることで、信頼度の低い安物のスイッチでもお望みの高信頼度のスイッチ回路を作ることができるという話だったのです。
これは物凄い話だと思いました。安物の部品でも信頼性の高いシステム、つまり満足に働くシステムが作れるという理論です。これは、出来の悪い社員でも間違わずに仕事をやり遂げる会社組織が作れるのだという話です。面白いと思いませんか?
今、信頼度p=0.9のスイッチがあるとします。信頼度とは、ある一定時間、故障をせずにちゃんと働く確率のことをいいます。p=1だったら、絶対に故障をしないことを意味します。スイッチをONにした時、電気が点いてくれる確率が0.9ということです。不信度q=1−p=1−0.9=0.1となりますが、10回に1回くらいの割合で電気が点かないことがある、これはそんなスイッチです。

このスイッチをこんな風につなげてみます。直列につなぐといいます。

そして、すべてのスイッチをONにします。この直列スイッチの信頼度
Q直=pnとなります。
もし、p=0.9のスイッチを10個の場合 Q直=0.910=0.3487となってしまいます。3回に1回くらいしか電気は点いてくれません。
そうか、どれか1つのスイッチが故障するだけで機能しなくなってしまうのですね。
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つぎに、スイッチを並列につなげてみます。このようにするとすべてのスイッチ壊れない限り電気はつきます。
並列回路の信頼度Q並は、1−(すべてのスイッチ役立たずになる確率)ということになります。それは、
Q並=1−(1−p)n
となります。pが1に近いと(1−p)nは限りなくゼロに近づきます。p=0.9でn=10の場合、信頼度 Q並=0.9999999999となります。
私はこれを見て嬉しくてひっくり返りました。 |
この計算結果を見ると、直列回路は使い物にならない、並列回路は賢いぞということになります。しかし、スイッチは電気をつける時だけでなく、点いている電気を切る、OFFにする時も使います。
電気を点けようとしているのに点かないというエラーを「第一種の過誤」とよび、電気を消そうとしているのに点いてしまうエラーを「第二種の過誤」とよびます。
直列回路は第一種の過誤には弱いのですが、第二種の過誤には強く
並列回路は第二種の過誤には弱いのですが、第一種の過誤には強い
のです。したがって、エラーを起こさない強いシステムを設計するには、直列回路と並列回路を上手く組みあわせることを考えなくてはなりません。実際には単に直列・並列を組み合わせるだけでなく、ネットワークを設計することになってきます。一つのスイッチだけでもスイッチですが、余計にスイッチを用意すれば信頼性の高いスイッチ・システムを組み立てることができるのです。余計なスイッチをたくさん用意することを「冗長性」を高めるといいます。Shannonは、どんなに低い信頼度の部品でも冗長性を高めることによって信頼性を高くすることができることを示しました。
たとえば、スイッチが4個あるとき、つぎのように組み合わせて回路を作ると第一種の過誤も第二種の過誤も小さくすることができるのです。興味のある方は力試しに計算して確かめてください。

つい、難しい話をしてしまいましたが、こういう原理を知っておかれると、信頼性にかかわるいろいろな仕組みを考えるときに役に立つことになるかもしれませんね。会社のような組織はたくさんのスイッチ(従業員)からなり、それが階層構造になっているシステムではありませんか?(2月7日・わかやま) |