★ 特に、その名にまつわる話が興をさかす。まずは和名の「オオアマナ」。
在来の「甘菜」と花や葉や茎の形がよく似ており、それより一回り大きいところからこう命名されたらしい。両者共にユリ科の球根に生える多年草で、その球根は食用にもなる。同種と考えられて不思議はない。だが、この植物は明治末期に観賞用として輸入された、ヨーロッパ原産の別種であった。
英名は数種あるが“Star of Bethlehem”が最もポピュラーなものらしい。「ベツレヘムの星」。いい名前だ。東方の3博士がその星に導かれ、キリスト降誕のベツレヘムに向かった故事が目に浮かぶ。ならばクリスマスの花かといえばそうでもない。開花期は4〜5月の春、ちょうど今頃だからむしろ復活節の方がふさわしい。
ということは季節性よりも、その花の形にこだわった命名だったのだろうか?確かに「オオアマナ」は6角の星の形に例えることもできよう。聖書の民は元来「…の星」という表現を好んでいたのだ。ちなみに、イスラエル国旗の中央には鮮やかな6角形の星印が配されている。それは「ダビデの星」だ。ダビデ(DAVID)という名の両端にある2個のDを、ギリシャ文字(Δ)に置換して図案化したものだそうだ。
ダビデはイスラエルを統一し、統治(在位・前997〜前966頃)した偉大な王であると同時に神を讃え、詩を詠み竪琴を奏でた優れた文人でもあったので、星の表象によってその功を記念し、称えているのである。一方キリスト教的には、「マタイによる福音書」の冒頭に示されているように、救世主イエス・キリストはこのダビデの直系の子孫だから、換言すれば、「ダビデの星」は「旧約聖書の星」であり、「ベツレヘムの星」は「新約聖書の星」といえよう。
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オオアマナ(新宿御苑) |
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学名ORNITHOGALUM(オルニソガルム)も何となくおかしい。
この言葉はギリシャ語のORNITHOS(鳥)+GALA(乳)で、直訳すれば「鳥の乳」。しかし、乳房のある鳥なんて見たこともない!他方、ヨセフスの有名な「ユダヤ戦記」と「旧約聖書」には「鳩の糞」という言葉が出てくる。これはヘブライ語のディブヨーニームの訳語で、どうもこれが学名「鳥の乳」の基となった言葉らしい。
要するに「鳥の乳」は、「鳩の糞」をより正しく、上品な表現に置き換えた苦心の代用表現と思えるのである。ヨセフスによれば「鳩の糞」は塩の代用品であり、旧約聖書によれば非常時に食材として売買されていたことが明らかである:
「(イスラエルの)サマリアは大飢饉に見舞われていたが、それに(敵軍の)包囲が加わって「ロバの頭」一つが銀80シェケル、「鳩の糞」1/4株が5シェケル(1シェケルは11.424グラムだから5シェケルは約57グラム)で売られるようになった(列王記・下6:25)」。
つまり「鳩の糞」は当時(前6〜7世紀頃)「鳥」類のもたらす「乳」ともいえる大事な食材の一であったのだ。そして鳥類の糞は、鳩に限らず、尿素(白い液体)と一緒に排泄されるから、一見、乳白色に見えるのだ。特に鳩のは白っぽい。そこで「鳩の糞」⇒「鳥の乳」となったらしい。
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