Editor's note 2013/5


オオアマナ

人間いくつになっても春は心ときめく。何か新しい発見がある。今年は「オオアマナ」だ。

いつも歩く公園の一角に群生している清楚な白い野花たち。「群生」といっても、十年近くもそのあたりを散策していながら気づかなかったくらいの、ひっそりとした佇まい。

それが最近は毎日鮮やかに目にとまる。それで一茎失敬して家に持ち帰り、つぶさに眺め入ったら、いろいろな事が次々に分かって面白かった。
 

特に、その名にまつわる話が興をさかす。まずは和名の「オオアマナ」。

在来の「甘菜アマナ」と花や葉や茎の形がよく似ており、それより一回り大きいところからこう命名されたらしい。両者共にユリ科の球根に生える多年草で、その球根は食用にもなる。同種と考えられて不思議はない。だが、この植物は明治末期に観賞用として輸入された、ヨーロッパ原産の別種であった。

英名は数種あるが“Star of Bethlehem”が最もポピュラーなものらしい。「ベツレヘムの星」。いい名前だ。東方の3博士がその星に導かれ、キリスト降誕のベツレヘムに向かった故事が目に浮かぶ。ならばクリスマスの花かといえばそうでもない。開花期は4〜5月の春、ちょうど今頃だからむしろ復活節の方がふさわしい。

ということは季節性よりも、その花の形にこだわった命名だったのだろうか?確かに「オオアマナ」は6角の星の形に例えることもできよう。聖書の民は元来「…の星」という表現を好んでいたのだ。ちなみに、イスラエル国旗の中央には鮮やかな6角形の星印が配されている。それは「ダビデの星」だ。ダビデ(DAVID)という名の両端にある2個のDを、ギリシャ文字(Δ)に置換して図案化したものだそうだ。

ダビデはイスラエルを統一し、統治(在位・前997〜前966頃)した偉大な王であると同時に神を讃え、詩を詠み竪琴を奏でた優れた文人でもあったので、星の表象によってその功を記念し、称えているのである。一方キリスト教的には、「マタイによる福音書」の冒頭に示されているように、救世主イエス・キリストはこのダビデの直系の子孫だから、換言すれば、「ダビデの星」は「旧約聖書の星」であり、「ベツレヘムの星」は「新約聖書の星」といえよう。

オオアマナ(新宿御苑)

学名ORNITHOGALUM(オルニソガルム)も何となくおかしい。

この言葉はギリシャ語のORNITHOS(鳥)+GALA(乳)で、直訳すれば「鳥の乳」。しかし、乳房のある鳥なんて見たこともない!他方、ヨセフスの有名な「ユダヤ戦記」と「旧約聖書」には「鳩の糞」という言葉が出てくる。これはヘブライ語のディブヨーニームの訳語で、どうもこれが学名「鳥の乳」の基となった言葉らしい。

要するに「鳥の乳」は、「鳩の糞」をより正しく、上品な表現に置き換えた苦心の代用表現と思えるのである。ヨセフスによれば「鳩の糞」は塩の代用品であり、旧約聖書によれば非常時に食材として売買されていたことが明らかである:

「(イスラエルの)サマリアは大飢饉に見舞われていたが、それに(敵軍の)包囲が加わって「ロバの頭」一つが銀80シェケル、「鳩の糞」1/4株が5シェケル(1シェケルは11.424グラムだから5シェケルは約57グラム)で売られるようになった(列王記・下6:25)」。

つまり「鳩の糞」は当時(前6〜7世紀頃)「鳥」類のもたらす「乳」ともいえる大事な食材の一であったのだ。そして鳥類の糞は、鳩に限らず、尿素(白い液体)と一緒に排泄されるから、一見、乳白色に見えるのだ。特に鳩のは白っぽい。そこで「鳩の糞」⇒「鳥の乳」となったらしい。


復活

埋葬

 そういえば先日、聖地巡礼から帰った友が「イヤァよかった!岩山の連なるエルサレムではねぇー、遠景で見たあちこちの岩石が乳白色の花で覆われていた。美しかったよぅ・・・」と自慢していた。

嫌がらせ爺の私は<バーカ、何が美しいだ!傍に行ったか?臭いよ、そりゃ。多分「鳩の糞」が散らばっていたんだ>と知ったかぶりしてからかおうと思ったが止めた。それが「オオアマナ」群生の情景だった可能性も十分あるからだ。

デンマークの聖画家カール・ブロック(1834 - 1890)の画集(JESUS/いのちのことば社・84年刊)に、それを証明するような絵が数点あった。「復活」でイエスの足元に描かれた大輪の花は「百合」かもしれないが、「埋葬」の遺体手前のしおらしい小花は「オオアマナ」に違いない。この花はイエスが十字架上で死を遂げた「ゴルゴタの丘」に群生していたという。今そのあたりは純白のヴェールで清々しく装われていることだろう。

花言葉「純粋・無垢・潔白」が、いかにもその情景にふさわしく思える。 (オザサ・5月7日)


部品保管箱(函)

2函方式古い話だが学生の頃、在庫管理の勉強をさせられたものだった。生産工場での部品・資材の管理は製造をストップさせないために大切なのだ。

定まった期間ごとに、部品在庫の数量を調べ、今後の需要量を見通しながら注文量を決めて発注するのを定期発注方式とよぶ。1回の発注量をあらかじめ決めておき、在庫量が一定の数量まで減ってきた時点で補充のための発注を行う、これを定量発注方式とよぶ。
 

もっとも自由度の高い方式は「不定期不定量発注方式」である。需要の変動に応じて発注時期も発注量も一定ではない最適な在庫計画を研究したものだった。

いろいろな管理方式の中で最もシンプルなものに2函方式2-Bin System)とよばれる、単価が比較的安い部品や商品の管理方式があった。図のような部品の箱を2個用意し、それぞれ部品を一杯に詰め込む。

Aの箱から使用していく。全て使い切りゼロになったら、Bの箱の部品を使い始める。同時に空になったAの箱に部品を補充するため発注する。自社部品工場で部品を製作している場合には、部品工場に製作を依頼して空の箱に部品を満たしてもらう。やがて、Bの箱が空になるから、Aの箱の部品を使うという具合に「2つの箱(函)」で管理をするのでこの名称がついた。一箱の容量は、部品の調達期間中に使用する分は最低限必要である。部品が到着するまでに使用中の箱が空っぽになると困るからである。

これは定量発注の典型的なケースで発注点方式の一例である。2箱に部品を分けてあるところがミソで、在庫をカウント(棚卸し)する必要が無い。棚卸しの作業は品物の種類が多いと大変な手間になる。
 

近頃のトイレットペーパーホルダー昔はトイレットペーパーのホルダーは1個だった。それがわが家でもこんな2連のホルダーになっている。

トイレに行くたびに、2-Bin方式を思い出していたのだ。変なおじさんでごめんなさい。

もし、そんなアイディアでこれが作られたのだとしたら、作った人に聞いてみたい。現実にはこうして左右の紙が均等に減っていく。両方がいっぺんに無くなったら惨めだ。


2連のホルダー

この2連ホルダーは2-Bin方式の予備在庫としての機能はなく、ただ、紙の量が2倍になっているだけのことでしかない。さすがに3連のホルダーは売っていない。


予備ペーパー

誰の知恵?こんなのを見かけた方がいるかもしれない。「上のペーパーが無くなったら、下のペーパーを上に移してお使いください」という仕掛けである。

これなら同時に使われることは無い。これはまさに2-Bin方式である。生産管理の技術者が考えたのだろうか?知恵のある主婦のアイディアなのだろうか?下の紙を上に移したら、戸棚から予備ペーパーをひとつ出してくるか、無ければスーパーに買いに行くかとなる。

トイレの紙にも在庫管理が必要なことがわかっていただけたかも知れない。頭と紙は使いようだ。

ORNITHOLOGY(鳥類学)という奇妙なタイトルのビバップの曲がある。Charlie Parker(Alto Sax)が書いて演奏した1946年のレコードが特に有名だ。小笹主幹の原稿をこのページに上げながらORNITHOSの語からこの曲が浮かんできました。そのチャーリー・パーカーのニックネームはBirdというのです。

麻薬とアルコールでぼろぼろになり34歳という若さで死んでしまいましたが、NYCのライブハウスBirdlandという名称はBirdにちなんで付けられた老舗のJazz Clubなのです。死ぬ一週前にBirdlandで最後の演奏をしました。

先日は八代亜紀がBirdlandで歌って話題になっています。その様子がテレビで放送されたそうです。

よりポピュラーな”How High The Moon”という歌をご存知の方は多いと思いますが、チャーリー・パーカーは同じコード進行の上にこの曲を書いたのです。そこで、凝ったアレンジでは、”How High The Moon”の間に”Ornithology”をスキャットで挿入したりします。オージーサンズとプロ・コーラスのGoodiesが8人でこの2曲を歌うというアレンジがあります。(2013/5/7・かっぱ)