クインシーのライブがブルーノート東京で行われると聞いて「おそらく最後だろうから」とチケットを買おうとしたら、「遅かりし由良の助」、25,000円のチケットが売り出した途端に完売だという。あとは国際フォーラムAで2日公演があるという。もう1回は広島だそうだ。
東京ドームとか武道館とか、ここ6000人のホールは大きすぎてあまり好きじゃない。出演者の顔も見えやしない。会場に設えた大スクリーンを皆が見ている。変な光景だ。でも、話の種、仕方がないので行ってきました。
長丁場のコンサート:休憩を挟んで4時間超のコンサート、前半はわれわれは名前も知らない日本人の亀田何とかいうベース弾きの若者が組んだ日本人によるトリビュートだという。出てくる歌手も一人だけ名前(絢香)を見たことがあるだけで、後は見たことも聞いたこともない人ばかり。クインシーのコンサートには似ても似つかわしくない人ばかりでした。お子様ランチがヘレン・メリルやマイケル・ジャクソンを歌ってましたよ。ああ、ゴスペラーズというグループも出てきました。クインシーのトリビュートにどういう脈絡があるのだか理解に苦しみます。
第1部のMCを兼ねた亀田某は紹介する歌手を「次のアーティストは・・」と耳障りな言葉を発します。以前にも書いたことですが、亡くなった昭和4年生まれの芦田ヤスシさんは「俺たちはアーティストなんてもんじゃねぇ」と。骨のあるジャズメンは「アーティスト」なんて呼ばれると気持ち悪がります。アーティストって日本語で何ていうのだろう。訳すのも憚る。
昔の外国人のコンサートでは日本人の前座が第1部を務めたものです。無いほうがいい付録です。お目当ては第2部に出てくるわけです。今時は流行らないスタイルでした。
クインシーが出てくるのは第2部で、出演するバンドも向こうから連れてきたリズムセクションを交えた日本人若手のフルバンドだが実力派の人たちでした。名の知れた歌手としては、クインシーの秘蔵っ子パティ・オースティン、ジェームス・イングラムといったところです。他にも目の青い人がいましたが、私が知るような人ではありません。そうそう、聖子ちゃんが出てきたのにも驚きました。上手に歌っていました。器用な人ですねぇ。
お客さんはすぐ立ち上がります。クラシックのコンサートではあり得ませんが、ポップスのコンサートでは「スタンディング何とか」といいます。これも特別な時ならいざ知らず、日本人の客も何処で覚えたのか何でもかんでも立ち上がります。邪魔でしょうがありません。かといって「済みません、見えないから座ってください」なんて言ったら、つばでも吐かれそうで大人しくしているほかなしです。今夜のお客さんはクインシーを神様のように思っているファンが大勢来ているのです。日本人とは不思議な人種です。以前にも同じような経験があります。Joao
Girbertoというボサノバの教祖様でした。かっぱは途中で退席しました。
パリでのクインシー:古いお話をします。クインシーの名前を知ったのは、ヘレン・メリル(vo)とクリフォード・ブラウン(tp)の定番、”You'd
Be So Nice To Come Home To”の編曲(1955)でだった。後にあのイントロでないと歌えないと言う人が沢山いたくらい有名なイントロとなった。イントロの定番というのも面白い。ヘレン初来日でこの歌を歌ったのを聴いたのが最初だった。「紐育の溜息」を聴かされてきた。41年後にブルーノート東京の楽屋でヘレンに会ったとき、「41年前に聴きに行きましたよ」というと「Oh!
it's yesterday」ときた。
クインシーは1957年からパリに音楽理論・作曲の勉強・修行に出かけているが、ミミ・ペランという女性歌手と一緒にLes
Double Sixというアルバムをプロデュースし、このLPで何曲か作曲している。Double Six of Parisというグループは後のSwingle
Singersという8人編成のコーラスのの前身となるグループである。Swingle Singersはバッハのコラールを”ダバダバ、ダバダバ”とやってしまったグループだが、ダブルシックスはフランス語とスキャットを織り交ぜたものすごいVocaleseだった。ミミ・ペランはLambert
Hendricks & Rossを聴いて一旦解散したグループを再編成し、4枚くらいアルバムを出している。

The Double Six of Paris, 1960
上の写真はミミ・ペランの率いるDouble Six
of Parisです。ピアノを弾いているのが20代のクインシーです。左端はウォード・スウィングル、隣がミシェル・ルグランの姉、クリスチャンヌです。6年前にルグランンと一緒に来日しました。右側の生きのいいマドモアゼルがミミです。
ミシェル・ルグランの歌にはいい英語歌詞がついた新しいスタンダードがありますが、作詞をしたAlan
& Marilyn Bergmanはクインシーがつないだものです。”How Do You Keep The Music
Playing?”など玄人好みの洒落た歌があります。(8月7日・かっぱ)
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