リレー随筆コーナー
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先日、義母が102歳で亡くなりました。10年ほど前から老人ホームに入って生活していましたが、頭はかなりハッキリしていて、まだらボケはあったものの、妻との会話ができていたのは幸いでした。しかし、身体の方は寄る年波には勝てず、半年くらい前から車椅子生活になっていました。 その生きざまは、いつも自分のことよりも他人のことを優先して考えるという、私のように下種な人間にはなかなか真似のできないものでした。その生き方は施設に入っても変わらなかったようで、介護士や看護婦さんたちからとても慕われていたようです。 彼らは母の臨終が近いことを知って、次々と部屋を訪れ、母への感謝を口々に(時に涙しながら)語っておられました。彼らの話を総合すると、何かにつけ心から「ありがとう」と言い、職員を大事にしていたようです。また、一度も怒ったり、不平を言ったりした事がないとのことでした。 私も、縁あって特別養護老人ホームの理事長を5年間勤めた経験から、施設職員にとって入居者の笑顔と感謝の言葉が、どれほど彼らの力になるかを知っているので、母は本当に良い入居者だったのだと実感しています。私も80歳になり、遅かれ早かれ人様のお世話になる時が来ると思いますが、その時には周囲の人たちに心を配り、心から「ありがとう」と言うことができれば、と思いました。 そのことを考えていた時に、私が若い頃ある牧師(その人は大学の教授でもあった)に聞いた話を思い出しました。それは、あるサークルの中心的存在だった人物が、「もうこれ以上得るものがないから」と言ってサークルを去っていったという話です。その牧師は「今の時代、人々は得る事ばかり考えている。人間、得るだけでは向上しない。与えることによる人間形成ということを考えるべきだ」と熱く語っておられました。 私たちの世代は皆もう老境に入っており、新しいことを習得することなど不可能な状態です。が、今までに培ってきた知識や能力を与えることはまだできる。もし、身体が不自由になってそれができなくなっても、笑顔と「ありがとう」を言うことは死ぬまでできる、ということを改めて感じた次第です。 (2018年6月) ■ ■ ■ ■ ■ |
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