リレー随筆コーナー

 カメラの絞り談義 


若山 邦紘
9)


楽友会の写真館とは須藤武美君(9期)のことです。ずっと若い世代にも市川卓広君(高校20期、三田会33期)や橋本英樹君(52期)などがいます。

昨晩、その須藤写真館から随筆原稿が届きました。話題はこの間使い始めたデジカメ談義です。須藤は同期のよしみ、彼の話を受けてカッパも写真機の話をして、俳諧の発句に脇句のごとくカメラ談義でちゃんちゃんばらばらとやってみようと思いつきました。

わたしが須藤写真館と同じく○○写真館と呼ぶ男がいます。彼はジャズ愛好者の仲間なのですが、人のために写真を撮ってくれたおっさんです。久保田写真館と名付けました。毎月、最終土曜日に「誕生会」を開いていますが、その一晩でバチバチバチバチと500枚撮ります。大パーティやコンサートともなると、1000枚くらい撮ります。そこからいい画像を選択して私のところに送ってくるのです。

ある時、久保田写真館にミニライカの画像と話を送ってやりました。その返事が来ました。

私が初めて入手したカメラは、ぺンタックスでした。職場の先輩から質札をもらって、流れる寸前の物を引き出したことを思い出します。

何にも解らず100/5.6を基本に100/8と100/11で撮っておりましたが、当時は、フィルム代、現像・プリント代もままならず、恐る恐るシヤッターを切っておりました。

100というのは、シャッター速度で1/100秒ということで、5.6 8 11とあるのは、絞りの値(F値)のことです。現在のカメラはほとんどがオートになってしまいました。Autoに設定しておくとシャッター速度も絞りも、距離を合わせることも無く、ただただシャッターボタンを押せば「シャカ、シャカ」と写真が撮れるのです。

デジタルカメラの中にはフイルムは入っていません。画像はメモリーチップに書き込まれるだけです。家に帰って、PCに移して編集をしたり、トリミングをしたりしてプリントすれば写真が出来上がります。メール添付で送ることも簡単です。

シャッター速度は100といえば、1/100秒。250といえば、1/250秒と解りやすいのですが、絞りの値はほとんどのカメラで、絞りを調節するリングに、

 

1.4  2  2.8  4  5.6  8  11  16  22

という目盛りがあります。この数字は√2倍刻みに並んでいるのですが、そのことに普通の人は気がついていません。数学的には公比が√2の等比級数(あるいは等比数列)であるといいます。

絞りとは、フィルムへの入光量を調節するための穴を言います。穴を大きくしたり小さくしたりするのです。よく人間の黒目の虹彩に例えられます。我々の眼球は明るいところでは瞳孔を小さくし、暗いところでは大きくして入光量を多くしようとします。

カメラのレンズは人間の目玉を真似して作ったことがわかると思います。


カメラのレンズの半径=1だとします。

面積 S=π ですから

=1の時は S=πとなります。

面積を半分にするためには、=1/√2にしてやればよいことが解ります。

面積を1/4にするためには、r=1/√4=1/2 となります。この関係を表にしておきます。

面積
S/π
半径
絞り
F=1/
1/2
1/√2=1/1.414
1.4
1/4
1/√4=1/2
1/8
1/√8=1/2.828
2.8
1/16
1/√16=1/4
1/32
1/√32=1/5.656
5.6
1/64
1/√64=1/8
1/128
1/√128=1/11.31
11
1/256
1/√256=1/16
16
1/512
1/√512=1/22.62
22

てなことになります。カメラの絞りの数字がFの欄に出てきました。絞ることによって口径が小さくなり、光を取り入れる穴の面積がこのように小さくなっていきます。

穴の面積が1/2になれば、レンズから入る光量1/2になります。つまり、入光量は穴の面積に比例します。F=1(開放)の時の入光量=1とすると、絞ると入光量は下図のようになります。

絞り値(F値)を√2 倍にすることを「1段絞る」といいます。1段絞ると入光量は1/2になります。2段絞れば1/4に、3段絞れば1/8になります。

F=22では入光量は1/512=0.00195となります。22まで絞ることの凄さを感じていただけますでしょうか?

絞りには光量を調節するだけでなく、もう1つの重要な効果があります。絞れば絞るほど焦点深度が深くなります。絞りを開くと、ピントの合う距離の範囲が浅く背景はボケます。絞り込むと背景にまでピントが合います。今のカメラでも高級機では、絞りを優先させるとかシャッター速度を優先させるとか決めることが可能てす。

    

須藤写真館も昔の写真家たちは、シャッター速度と絞りの組み合わせを被写体の状況を見て「勘で」決めていたのです。それがアメリカで電子露出計が開発され、露出計を被写体に向けて明るさを計測し、最適な露出の組み合わせを器械で計ることができるようになりました。Weston Master IIなんていう露出計を親父が買ってきました。

カメラから被写体までの距離も人間の直感でカメラにセットしたものです。距離の単位はfeetでした。間違うと「ピンボケ」になります。ピントがボケたという意味です。これも軍隊で使っていた大砲用の距離計を小型化してカメラにマウントして距離を正確に測れるようになりました。高級機には距離計が内蔵されていました。

2眼レフや1眼レフカメラは、レンズを通してフィルムにむすぶ画像を見られるような構造で、被写体の像がピンボケでないかどうか目で確かめられます。ピントを合わせる作業がいとも簡単になりました。

現在のカメラは全自動カメラです。露出もピントもストロボを光らせるかどうかもカメラが判断してくれます。人間は被写体にカメラを向けてシャッターを押すだけです。実につまらなくなりました。須藤写真館も同じ思いではないかと想像します。昔は自分自身の研究心と経験によりより良い写真を撮れるようになりました。それを地で行ったのが須藤写真館だといいたいのです。(2014/4/22)