慶應義塾高等学校・女子高等学校の両校楽友会 

合唱団の人々へ

 

中村 精


昨年の春から日吉の高等学校と三田の女子高等学校とが連合して混声合唱を行ひ、すでに相当の成績をあげていることは、内外ともに認めているところで嬉しいことと思ひます。

我が義塾では、高等学校の段階だけが、男女別々の学校をつくってゐますが、しかしあらゆる機会を利用して、共学の長所をとり入れたいといふ私達の念願がいち早くかういふ美しい形で実現されたことはこの上もないことです。私は混声合唱は、ただ単に音楽の上から見て望ましいものであるばかりではなく私達の人間生活にとっても非常に大きな示唆を与へてゐるものと思はれます。それは、男女がそれぞれの持つ特性を充分発揮すればするほど、美しいハーモニーが生まれるといふことであります。

学校の情操教育には、いろいろの面がありますが、その中でも音楽が一番効果があるのではないかと思います。昔からあらゆる宗教が必ず音楽と結びついて発達してゐることを見れば、このことは明らかであります。しかし情操教育としての音楽は、決して音楽の教室だけで止まってゐてはいけません。学校生活のいろいろの方面に浸透することが必要です。

ドイツ人であったかと思ひますが、三人集まればすぐ歌ひだすそうですが、学校の生活でもかうあってほしいものです。 私はいつかアルプスの徳本峠の茶屋で休んでゐるときに、数人の男子学生が、何の歌であったか、二部合唱をしてゐるのをきいて、その美しさに打たれたことがありました。塾の学生は男女を問はず、誰でもすぐ、合唱ができる程になったら、どんなによいでしょうか。私はいつもそれを思ひます。

健康で気品のある歌声が、三田の山から、日吉の丘から流れ出て、我が国の青年男女を風靡するといったら、話は少し大きすぎるかもしれませんが、どうか諸君はその位の意気込みを以てうたってほしいと思います。


編集部注:

    1. 筆者は初代女子高校校長
    2. 本文は「楽友・創刊号」から、すべて原文のまま転載したものです。
    3. 冒頭の「昨年」とは、掲載誌が51年3月3日発行のものであることから、1950年、即ち「女子高校創立」と同時にこの合唱団活動が始まったことを示します。

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