慶應義塾大学混声合唱団楽友会

慶應義塾大学混声合唱団楽友会
−第60回定期演奏会−

 
日時2011年12月20日(火)
 
会場杉並公会堂大ホール

― プ ロ グ ラ ム ―

♪第1ステージ♪

Take Him, Earth, for Cherishing
・詩:Prudentius
・訳:Helen Waddell
・作曲:Herbert Howells
・指揮:栗山文昭(常任指揮者)

♪第2ステージ♪

混声合唱「煉瓦色の街」〜日日のわれらへのレクイエム〜
・作詩:阪田寛夫
・作曲:大中恩
・指揮:杉山哲也(学生指揮者)

♪第3ステージ♪

音楽劇 「かしわばやしの夜」− 舞台のためのカーニバル−
・原作:宮澤賢治
・作曲:林光(楽友三田会会友)
・指揮:栗山文昭(常任指揮者)
・アコーディオン:佐藤芳明
・クラリネット:橋爪恵一
・チェロ:中田有
・パーカッション:加藤恭子
・演出:しままなぶ
・照明::大鷲良一(創光房)


第60回定演記

編集部(オザサ・12月20日)

楽友会の定期演奏会はいい。思いがけない人と出会って想い出にふけったり、今ここにこうしてあることに不思議を感じたり・・・。今回は節目の第60回、感慨も一入(ひとしお)であった。

まずは昔のこと。第1回は1952年12月26日(金)に催された。於:神田・YWCAホール。出演者は塾高と女子高の高校生に6名の男子大学1年生を加えた総勢64人。「演奏会」ではなく「発表会」と称したくらいだから、客席には出演者の家族が目立ち、言ってみれば学芸会的雰囲気に包まれていた。プログラムも男声、女声、混声それにごく小編成のグループが入れ変わり立ち替わり登場し、身内の人々に練習の成果をご披露するといった風の、おなじみの小曲を並べた構成であった。

最初のステージでは、信時潔門下で岡田先生の兄弟子にあたる岡本敏明先生が、平易で楽しい混声合唱曲の数々を指揮し、何ごとも初体験で緊張していた出演者たちの心と体を思いきりほぐしてくださった。と同時に、当時既に日本合唱界のリーダーとして大活躍中の先生の、あの包容力あるあたたかいお人柄と魅力的な指揮ぶりで、私たちに合唱することへの喜びと楽しさをたっぷりと植えつけてくださったのだ。

最終ステージでは若き日の熱情あふれる岡田先生の「ハレルヤ・コーラス(ヘンデル)」で掉尾を飾った。聖書に「青春の日々にこそ、お前の創造主に心を留めよ(コヘレト12・1)」とあるが、これは信仰生活に限らない。音楽もその一であり、若き日に覚えた音楽は自然と身につき、生きている限り欠かすことのできない糧となった。

  

そして今。奇しくもこの日は75歳の誕生日。何よりのプレゼントを頂いた気分でオープニングの「塾歌(詞:富田正文/曲:信時潔)」を待った。近年の「定期演奏会」には何故かスクール・カラーが見えないが、これを一聴してホッとした。塾員としての誇りや、それを共有する現役との一体感をやっと取り戻せた気がしたからだ。そしてその冒頭の美しいハーモニーを一聴して心は直ちに音楽の世界に惹きこまれた。学生指揮者の緻密な曲づくりによって歌いなれ、聴きなれた歌詞の一語一語が新鮮に浮き立ち、単に慣習として歌うのではないきらめきを感じた。特にソプラノの清々しい高声に心洗われる思いがした。

続く“Take Him・・・(曲:Herbert Howells)”もまた秀逸であった。常任指揮者・栗山文昭氏の棒が冴え、目をつぶって聴いていたら、今から30年ほど前に住んでいたイギリス南部の古都にある、チチェスター・カテドラルの響きに想いが跳んだ。

千年を超す歴史あるその大聖堂では、毎年11月2日の「死者の日(日本のお盆の中日にあたる)」に近隣の聖歌隊を集めて“Choir Festival”を催す。そこで私もその一員として大聖堂で歌う機会を得たのだが、その時歌ったのがちょうどこの曲だった。ソプラノが聖堂付属のグラマー・スクールの少年たちであった他、隊員は全員昔ながらの男性だけで、中には祖父から孫まで3代の家族がいたりして和やかな雰囲気であった。が、練習は厳しく、特に発音と発声法に何度も細かい注文がついた。その結果、歌い終わった後に身震いするほどの感動が残った。大聖堂にこだまする音の広がりと残響、石造りの祭壇や壁を彩るステンドグラスやタペストリーなどの装飾が、この曲の幽玄な響きに永遠の淨福を思わす神秘的で荘厳な雰囲気を引き立てていた。

そうした環境にない杉並公会堂での演奏は気の毒だ。スッピン勝負となる。それにもかかわらず楽友会の演奏を美しいと思ったのは、もとからこの曲に惚れていたこともあるが、何よりも、団員たちの東北の被災者に対する思いやり―惻隠(そくいん)の情がひしひしと伝わってきて胸をうったからである。テクニカルにもよく整えられ、純正調に近い響きでアカペラ合唱曲特有の「一にして多、多にして一」の結構を際立たせていた。<これぞ楽友会トーン>と思わせるものが年々洗練度を増している。ボーイッシュな、というか揺れのない純粋無垢な発声と声部間のバランスのよい調和こそ、イギリスのアンセムや広く長く西欧に伝わるアカペラ・モテット演奏の基礎であり要諦である。そしてそれが「楽友会トーン」として定着してきている。その技術と精神が相まって、この曲本来の美を最大限に引き出し得たものと思う。その真摯な努力の集積に、盛大な拍手が寄せられていた。

  

プログラムの中締めは、4年生の杉山哲也君が指揮する「煉瓦色の町(詞:阪田寛夫/曲:大中恩)」。何より感心したのは、この正味15分の中味の濃いアカペラ曲を、彩り豊かに表現しつくして飽かせなかったことである。たいていの場合この曲は途中でだれる。棒歌いになる。テンポが走ったり音程がずれたりすることも多い。しかしそんな心配をよそに私は童心に帰り、楽しく「煉瓦色の街」を彷徨(さまよ)うことができた。

だが<「楽しく」とは何事か>と怒られるかもしれない。副題に「日々のわれらへのレクィエム」とあるからだ。そうかと言って深刻ぶる必要もあるまい。歌詞を読んでも曲そのものにもそんな深刻な様相はない。過ぎゆくものへの惜別の情があるにしても、目指すものは「瑠璃色の空」への希望である。だから若者たちの明るい歌声に乗って元気をもらう、<それでいいのだ>と一人合点していた。

そもそも阪田寛夫(1925-2005)/大中(めぐみ)(1924-)コンビは従兄弟同士で「サッちゃん」「おなかのへる歌」「犬のおまわりさん」といった明るい童謡の数々を編み出した仲である。ご両人共にクリスチャン・ホームに育ち、幼児の頃から讃美歌に親しみつつ成長された。後に阪田さんは作家・詩人、大中さんは音楽家となりごく自然に作詞/作曲のコンビができたらしい。

霊南坂教会で長くオルガニスト・聖歌隊長を務めた大中寅二さん(1896-1982)が恩さんのご尊父だが、信時潔先生の高弟のお一人でもいらした。そうするとこの方々は、信時⇔岡田両先生の絆を通じて楽友会とも縁が繋がる・・・「煉瓦色の町」を聞きながら、既に他界された寅二・阪田の叔父・甥コンビが天国で、楽しげに新しい歌を創作されている様子が脳裏をかすめた。それが私なりの「レクィエム」だと思った。

  

さてメイン・ステージは「かしわばやしの夜」という音楽劇。宮沢賢治の童話に林光先輩が音楽を付けたもの(1996年初演)。「みんな綺麗だった」「楽しそうでよかった」「ご苦労様」といった身内的賛辞がいくらでも口を衝いて出る。事実、現役の諸君は本当によく演技し、歌った!あの長い歌詞というか台詞全部を暗記したことだけでも驚嘆に値する。前座のステージでも全曲を殆ど暗譜して歌っていたのだから、みんな学業やシュウカツに支障は出なかったか?と余計な心配もしたくなる。これも身内意識の故か?要するに私は「第1回発表会」で客席にいた父兄のような気持ちになっていたわけだ。

特に今回の演し物は「舞台のためのカーニバル」と銘打った、いわば一種のお祭りだ。難しいことは言わずに舞台の上も下も一緒になって楽しめばよいのだろう。だから種々の懸念はさておき、とにかくメデタシ、メデタシでこの稿を閉じよう。

  

以下は演奏曲以外で特に気づいたこと7点:
@プログラムを開けて最初に目に入ったのが高校楽友会の第48回定期演奏会のチラシ。久しく途絶えていた高校と大学楽友会の交流が再開した証しとして嬉しく思った。塾高から大学の楽友会に進んだ者も今年は2名いたという。近来稀な朗報であった。

Aちなみに「かしわばやし」の林先輩は、厳密にいえば塾高楽友会(当時は「音楽愛好会」)のみの在籍で大学楽友会とは無縁でいらした。だが今は、楽友会総体の先達として皆が敬慕する存在となっておられる。仄聞するところによると現在はご入院加療中とのこと。一日も早い全快をお祈りしよう。

B高校楽友会との絆を結び直すキッカケとなったのは今年初めて挙行された「オール楽友会ファミリー・コンサート(AGFC)」で、その結果は大好評であった由(プログラム巻頭の大学現役幹事長・岩崎慧一君の「ご挨拶」による)。今後もぜひこの行事を継続し、毎年の恒例行事とするよう、楽友三田会のリーダーシップに期待したい。

C岩崎現役幹事長の大活躍によって、今回の演奏会が記念すべき盛り上がりを見せたと思う。率先してよく宣伝・広報活動に力を注ぐ一方、楽友三田会を始め各地域三田会(東久留米、杉並等)ともよい関係を結んで楽友会の名をあげ、団員の結束力を一段と高めたように思える。それが演奏面でも来聴者数にもよく現われていた。会場はほぼ満員の盛況であり、受付業務その他会場整理等にも行き届いた細かい配慮がなされて感心した。

D塾に薬学部が設置されたのは2008年のことだが、早くも同学部から初の学生指揮者が誕生した。杉山哲也君である。他に4名の同学部に属する部員もいて将来が楽しみなグループに成長している。

E楽友会史上初のことと思うが、団員の中で金髪娘も大活躍。日本語も器用にこなして歌いかつ演技していたので感嘆した。プログラムの団員名簿によるとその2名(S/A各1名)はドイツからの交換留学生。楽友会もそろそろ海外に遠征してみては?

Fこのドイツ女声も加えると今年の団員数は81名となり、舞台が狭く感じられようになった。人員動静は下表の通りだが、毎年のことながらパート/学年別の員数のばらつきが気になる。殊に女声の少なさは創立時以来の悩みである。昨年迄は学生指揮者・橋本亜依さんが唯一の塾女子高出身者として頑張っておられたが後が続かない。女声増員のキーは女子高楽友会にあることをお忘れなく。こうしたバラつきを解消するには、先輩が出身高校をマメに訪問し、説明会を開いていわゆる「一本釣り」をするのが最も効果的である。入学シーズンに希望者を募るだけではダメだ。この際一貫教育校としてのメリットを生かし、前述の塾高や女子高、それに最近部員が増えつつある志木高、湘南藤沢、NY学院にもっと組織的コンタクトを開始したらどうだろう。さらに欲をいえば塾高・女子高以外にも楽友会組織を塾内各校に増殖したい。先ずは湘南藤沢キャンパス支部か?やる気になればその可能性は十分にある。楽友会創立70周年(2018年)に向け、皆で夢をもとう!

   

団員数推移
団員数
S
A
T
B
合計
第58回(09年)
1年
4
6
3
4
17
2年
9
4
8
5
26
3年
2
4
2
4
12
4年
5
3
4
4

16

総数
20
17
17
17
71
第59回(10年)
1年
4
4
6
8
22
2年
4
7
4
4
19
3年
7
4
9
5
25
4年
2
4
2
4

12

総数
17
19
21
21

78

第60回(11年)
留学生
1
1
2
1年
4
5
5
6
20
2年
3
4
7
7
21
3年
4
6
2
4
16
4年
5
4
9
4

22

総数
17
20
23
21
81
資料:定期演奏会プログラム「団員名簿」より

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